〜生活インフラに頼りきらず、自らの「生きる力」を組み立てる〜
鎌倉で定期開催している「かまくら暮らしの防災術」。今回は、参加者の皆さんと防災会社の方々とともに「アウトドア防災の可能性」について話もしながら確認し合いました。

東日本大震災から15年が経過した今、私たちが改めて向き合うべき「防災の本質」とは何でしょうか。
1. 人間が生きるための鉄則:「三の法則」
災害時、私たちがまず直面するのは「ライフラインの途絶」という過酷な現実です。人間が生命を維持するために絶対に無視できないタイムリミットが存在します。それが、サバイバルの世界で知られる「三の法則」です。
- 3分:酸素(呼吸)
- 予期せぬ事態に直面したとき、人は無意識に息を止めてしまいがちです。まずは深く深呼吸をし、呼吸を整えてパニックを静めることがすべての始まりです。
- 3時間:体温保持
- あまり知られていませんが、衣服が濡れたり過酷な寒さに晒されたりすると、人はわずか3時間で低体温症に陥り、命の危険に直面します。事後の対処ではなく、「いかに濡らさないか、冷やさないか」という事前の予防策(衣服やアルミシートでの防寒など)がすべてです。
- 3日:飲料水(飲める水)
- 人間は水分が補給できないと、72時間(3日)が生存の壁と言われています。ここで重要なのは「ただの水」ではなく「飲める水(安全な水)」であること。雨水だけでなく、土壌の栄養をまとった沢水など、ミネラルを含んだ水の確保が理想です。
- 3週間:食料
- 水と体温さえ確保できていれば、人間は3週間(あるいは30日)食料がなくても生き延びられると言われています。

【くらしの防災術の視点:新・三の法則】
この「三の法則」に、私たちは「300分(5時間)の排泄(トイレ)問題」を付け加えます。災害時の避難生活において、食の確保と並んで最大の課題となるのがトイレです。「どこでもしていい」わけではないからこそ、携帯トイレの備えと使い方の周知は、尊厳を守るためにも不可欠です。
2. インフラ復旧の「タイムラグ」という現実
多くの人が「困ったときは国や行政(公助)が助けてくれる」と考えがちです。しかし、大規模災害時におけるライフラインの復旧には、私たちの生存限界を遥かに超える時間がかかります。
| ライフライン | 復旧までの目安(東日本大震災・熊本震災平均) | 私たちの生存限界 |
| 電気 | 約1週間 | 体温保持は「3時間」が限界 |
| 水道 | 約3週間 | 飲料水は「3日」が限界 |
| ガス | 約5週間〜1ヶ月以上(都市ガスの場合) | – |
※このデータはあくまで地方都市の平均値であり、人口が密集する首都圏や、能登半島地震のように道路が寸断された地域では、さらに長期化(1年以上)することが現実となっています。
この「生存限界」と「インフラ復旧」の圧倒的なギャップ(差)を埋めるもの。それこそが、行政に依存しない「圧倒的な自助の力」です。
3. 防災を外付けではなく「インストール」する
防災用品を買い揃えて安心する「外付けの防災」には限界があります。なぜなら、災害の規模によっては家もろとも物資が流され、失われることがあるからです。
物がない「丸腰の自分」になったとき、何ができるか。
アウトドアの本質は、衣服を着て、食べて、寝る、そして濡らさないという「生きることそのもの」を、何もない屋外でいかに合理的に組み立てるかにあります。
- 道具だけでなく「技術」を身につける
- 自分の持っている物資を人に分け与えられる「心」を持つ
これらが備わって初めて、備蓄した物資も生きてきます。防災を特別なものとして捉えるのではなく、日頃のアウトドアやキャンプの楽しさの中に「生きる技術」としてインストールしておく。これこそが、湘南・鎌倉エリアに暮らす私たちにふさわしいライフスタイルではないでしょうか。
日常から備える「衣食住」の防災術
1. 衣(Clothing):体温保持の最前線
災害時、人間が最も緊急に直面する命のリスクは「体温保持」です。「衣」は、その最前線。
日常では、動きやすく、吸汗速乾性に優れた服など、機能性を重視したファッションを楽しみます。アウトドアの経験を「繋ぎ」として、体温調整ができる「レイヤリング(重ね着)」の技術を日頃から取り入れます。濡れた服が体温を急激に奪う危険を理解し、いざというときはその知識が低体温症を防ぐ実践的な技術となります。
2. 食(Food):命を支え、心を癒やす糧
命の源である水と食料。災害時、食は単なる栄養補給だけでなく、心の安らぎにも繋がります。
日常では、美味しい食事を楽しみ、食材をストックします。日頃の「繋ぎ」として、限られた水や火で調理する技術(例:パッククッキング)を身につけ、食材を日頃から使って買い足す「ローリングストック」を実践します。この経験が、災害時に安全で温かい食を確保する力となり、脱水症状や栄養失調を防ぎます。
3. 住(Shelter):安全な生活空間の確保
災害時、自宅や避難所は、外部環境から身を守る唯一の場所です。
日常では、快適な暮らしと、家具の配置、耐震対策を考えます。「繋ぎ」として、テントの設営技術やブルーシートの活用方法を学び、家の家具を災害時に安全な生活空間を確保しやすい配置に工夫します。日頃培ったアウトドアのスキルが、避難所での簡易シェルターの作成や、自宅での安全な生活スペースの確保に役立ちます。
4. コラムの結びに:最終目的地は「コミュニティの再構築」

アウトドアは「個」や「家族」の完結した楽しさで成立しますが、防災のゴールは「コミュニティ(結びつき)の再構築」にあります。
在宅避難が推奨されるこれからの時代、ただ物資を抱え込むだけでなく、「隣の人が困っていたら水を分け合える関係性」や、お互いのプライバシーや防犯(特に女性や子どもの安全)を守り合える地域コミュニティが不可欠です。
「湘南ひとまち」を通じて、楽しさから始まるアウトドアの技術を学び、いざという時には地域で助け合える。そんな温かいコミュニティを、これからも皆さんと一緒に組み立てていきたいと思っています。
次回のコラムでは、この「三の法則」の根幹である「体温保持(衣服やシェルターでの防寒技術)」について、さらに実践的なライフハックをお届けします。どうぞお楽しみに!
今後予定しているイベント一覧
③体温をどう守るか(レイヤードシステム、寝袋、マットなど学ぶ)
7月9日(木)18:00~20:00
④トイレ問題(使い捨てトイレ各種実験、衛生問題を語り合う)
7月23日(木)18:00~20:00
⑤アイデア防災クッキング1(実用性のある防災料理をつくる)
8月6日(木)18:00~20:00
⑥鎌倉の地形を学ぶ(ハザードマップや等高線などから鎌倉独自の地形を学ぶ)
8月27日(木)18:00~20:00
⑦アイデア防災クッキング2(実用性のある防災料理をつくる)
9月10日(木)18:00~20:00
⑧楽しいロープワーク(日常で実用性の高いロープワークを学ぶ)
9月24日(木)18:00~20:00
アウトドアライフアドバイザー 寒川ご夫妻のご紹介
寒川一さん

アウトドアライフアドバイザー。アウトドアでのガイド・指導はもちろん、メーカーのアドバイザー活動や、テレビ・ラジオ・雑誌といったメディア出演など、幅広く活躍中。とくに北欧のアウトドアカルチャーに詳しい。東日本大震災や自身の避難経験を経て、災害時に役立つキャンプ道具の使い方・スキルを教える活動を積極的に行っている。
著書に『新時代の防災術』『「サボる」防災で生きる』『これからのキャンプの教科書』他
寒川せつこ さん
アウトドアの知恵を生かした災害時にも役立つ料理をメディアやワークショップなどで伝える。北欧の暮らしのエッセンスをレシピにも取り入れている。


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参加者の方の声
鎌倉市在住 Yさん
必ず来る自然災害。その時に大切なのは「自分や家族を守り抜くスキル」があればと受講しました。
「起こらないだろう」という正常性バイアスにとらわれず、自助の力としてのアウトドア防災を身につけておくこと。
それは周囲に依存せず、迷惑を最小限にとどめる備えと考えて参加し続けています。
逗子市在住 Iさん
防災用に買った浄水器を使わずにいたけれど、鎌倉の湧水ワークショップを知り関心が高まりました。監修は焚き火カフェの寒川さん。インスタで見つけた防災講座に1月から参加し、毎回新しい発見があります。いつか自分の体験をもとに、防災ワークショップの輪を広げていきたいと思っています。
鎌倉市在住 Sさん
防災という非日常を意識する行為をいかに日常に溶け込ませるか、という点に意識を置かれている講座です。 各回それぞれの学びがとても深いのももちろんですが、連続して参加することにより、定期的に防災について考える機会ができ、意識が自然と高まる事が他の講座にはない魅力だと思います。いつでもどなたでも参加できます!
暮らしの防災コラム(第2期)
- 第1回「正解のない防災を自分ごとで考える」
- 第2回「助けてもうらことも防災」
- 第3回「寒さは命に関わる」
- 第4回「食から考える防災」
- 第5回「住んでいる街や自然を知ること」
- 第6回「サプライズの気持ちを忘れずに」
- 第7回「火を学ぶ、火と暮らす」
- 第8回「トイレから考え直す防災」
- 第9回 「便利の罠をロープから考える」
- 第10回 「最小限で最大限を」
- 第11回 「鳥の目で防災を考える」
- 第12回 「生きる」を暮らしの真ん中に 【最終回】
これまでの取り組みやイベント情報を知りたい方は、かまくら暮らしの防災術Facebookグループをぜひご参加ください!





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