【防災コラム】離島の暮らしから学ぶ、“知る”を“できる”に変える防災 ―― ロープワーク編

「かまくら暮らしの防災術」第7回のテーマは「楽しいロープワーク」。日常でも実用性の高いロープの結び方を学ぶ回ですが、その前段として今回は、屋久島から特別参加してくださった藤原さん親子を交えた自己紹介と、離島ならではの防災事情についての対話からスタートしました。

屋久島から見えた、離島の防災のリアル

会の冒頭では、参加者それぞれが防災やロープワークに対する思いを語り合う自己紹介の時間が持たれました。中でも今回は、屋久島から特別参加された藤原さん親子のお話が大きな学びとなりました。

人口約1万1,000人の屋久島では、天候不良によるフェリーや飛行機の欠航が日常的に起こり得ます。そのため、ガソリンをドラム缶(通称:携行缶)で常時ストックしたり、大型冷凍庫(ストッカー)に食材を非常用として備蓄したりすることが、特別な備えではなく暮らしの一部として根付いているといいます。

さらに印象的だったのが、気象予測の仕方です。観測機器の数字だけに頼るのではなく、隣に見える種子島や薩摩硫黄島の“見え方”(くっきり見える日は翌日天気が荒れるサイン、など)といった、地域に伝わる経験則から天候や生活への影響を読み取っているとのこと。台風による停電・断水はほぼ前提として、カセットコンロやランタンを普段から常備し、家の中で凌ぐ「城籠もり」の体制を整えているそうです。加えて、島内に豊富な自然の水(川の水など)があることも、大きな安心材料になっているといいます。

【特別ゲストの声:屋久島の暮らしと防災】

「フェリーが欠航すれば数日単位で物流が止まるのは当たり前。だからこそ、ガソリンも食料も備えるというより日常の一部として持っておく感覚です。空の様子や隣の島の見え方で、明日の天気をなんとなく読む――そういう感覚も、暮らしの中で自然と身についていきました」

―― 便利なインフラに囲まれた鎌倉での暮らしからは想像しにくい感覚ですが、裏を返せば「経験則」や「日常の備え」こそが、インフラが止まった瞬間に最も頼りになるということを、藤原さん親子のお話は教えてくれました。

防災を支える3つの柱「ツール・スキル・マインド」

藤原さんの体験談を受け、寒川さんからは「暮らしの防災術」全体を貫くコンセプトとして、防災を支える3つの柱が改めて整理されました。

内容ポイント
ツール(道具)ロープ、浄水器などの防災・アウトドアグッズ持っているだけでは意味がなく、使いこなせて初めて活きる
スキル(技術)ロープワークや火起こしなどの知識・技日常の中で繰り返し使ってこそ、非常時にも体が動く
マインド(心・判断力)道具や技術をどう使うか判断する力安全性の確保や、助け合いの気持ちをコントロールする力

どれだけ優れた道具を持っていても、使うスキルとマインドが伴わなければ、いざという時に活きません。この3つが揃って初めて「暮らしの防災術」になる、という考え方が、シリーズ全体の軸になっています。

生きるための「3の法則」、アップデート版

以前のコラムでもご紹介した、人間が生き延びるための優先順位を示す「3の法則」。今回はここに、これまでのワークショップで積み重ねてきた学びをもとに、時間軸がアップデートされて共有されました。

目安の時間限界を迎える要素ポイント
3分酸素(呼吸)最優先で確保すべき、生命に直結する要素
3時間体温保持(体温)寒さ・暑さに晒され続けると命に関わる
300分(約5時間)トイレ・衛生環境衛生問題はパニックや健康被害に直結するため、非常に重要な時間軸として追加された
3日脱水症状を防ぐための限界
30日食料優先順位としては最も後回しでよく、焦る必要はない

呼吸・体温・排泄という「命に直結する要素」を先に押さえておけば、水や食料についてはある程度落ち着いて備えられる――この順番を体に染み込ませておくことが、パニックにならないための土台になります。

ロープワークの実践講習の様子

そして、ロープへ

自己紹介と3つの柱、3の法則というシリーズを貫く“考え方”を確認したところで、この日はいよいよ本題である「ロープワーク」の実践講習へ。ツール・スキル・マインドの3つの柱のうち、まさに「スキル」を体で覚える時間です。日常のふとした場面から、災害時のシェルターづくりまで幅広く応用できる結び方の数々を、実際に手を動かしながら学んでいきました。

シェルターを制するのは「見えない張り」

ロープをピンと張って見せる実演の様子

今回の会場は屋内だったため、実際の野外設営ではなく、シェルターづくりに直結する「手元でのロープワークの完全マスター」が目標として掲げられました。

シェルターというと雨風や日差しを避けるためのもの、というイメージが先行しがちですが、それだけではありません。「濡れない」「風にさらされない」状態をつくり、体温低下を防ぐこと――これこそがシェルターの最優先の役割である、という位置づけが改めて共有されました。

そして、その質を大きく左右するのが「テンション(張力)」です。ブルーシートやタープは、シワなく“パツン”と張ることで雨を弾き、風の抵抗やバタつきを最小限に抑えられます。この「張り」をどうつくるかが、この日の結び方の練習全体を貫くテーマになりました。

マスターすべき基本の4つの結び

スライドの結び方図解を見ながら実践する参加者

シェルターづくりに不可欠な、4つの基本の結び方を実践・復習しました。

結び方用途ポイント・注意点
① 本結びロープとロープを繋ぎ合わせて延長する引っ張るほど強く締まり、根本を押せば簡単にほどける。手順を誤ると「崩れた結び」になりほどけなくなるため、正しい順序が重要
② ふた結びテーブルの脚や木など、構造物にロープを固定する定番の結び締め込むとどこまでも縮まるため、人や動物への使用は事故につながるので絶対禁止
③ 自在結び結び目をスライドさせ、ロープの張り具合を自由に調整・固定する市販の「自在金具」がない非常時でも、ロープ1本で張り具合を調整できる、防災上非常に重要なスキル
④ プルジック結びメインロープに細めのロープを巻きつけ、任意の位置に固定点をつくる(ランタン吊り下げ等)横に引くとロープ同士の摩擦で強力に固定される一方、結び目自体を持てば簡単に位置をスライドできる

参加者全員がこの4つを再現できるようになるまで、何度も手を動かして練習が繰り返されました。頭で理解するだけでなく、体に覚えさせて初めて「使えるスキル」になる――まさにこのシリーズが大切にしている「知る」を「できる」に変えるプロセスそのものでした。

現場での応用力―“ないものは工夫でつくる

結び方と合わせて共有されたのが、道具が揃っていない状況でも設営を可能にする「現場での工夫」です。

ペグ(杭)やポールが手元になくても、周囲に落ちている枝を削ってペグの代わりにしたり、ペットボトルのキャップをシートの内側にかませてロープで縛ることで、ハトメの代わりとなる固定点をつくることができます。特別な道具がなくても、身の回りにあるものを組み合わせれば、どこでも設営点はつくれる――そんな実践的な知恵が共有されました。

もう一つ強調されたのが、設営前の「観察」です。風向きと太陽の動き(西日の方向)を見極めずに向きを決めてしまうと、タープが風に煽られて壊れたり、焚き火の火の粉でシートや寝袋が燃えてしまう危険があります。結び方という「技術」だけでなく、周囲を読む「観察力」もまた、シェルターづくりに欠かせないスキルの一つです。

編集後記:結び目ひとつも、暮らしの中で育てるもの

今回のロープワーク実践編を通じて改めて感じたのは、防災のスキルは一度説明を聞いただけでは身につかない、ということです。参加者全員が4つの結び方を自分の手で再現できるようになるまで、繰り返し練習を重ねる姿が印象的でした。

ロープワークもまた、特別な技術としてではなく、日常の中で手が覚えるまで扱っておくべき“暮らしの所作”の一つ。屋久島のリアルな備えから、シェルターを支える結び目まで――「知る」を「できる」に変えていく積み重ねこそが、いざという時の力になります。

実際にロープを使った屋外でのフィールドワークは10月に予定されています。次回9月10日(木)18:00〜は「アイデア防災クッキング2」(会場:NIHO kamakura)です。

次回のお知らせ

次回の「かまくら暮らしの防災術」は、9月10日(木)に開催予定です。 テーマはみんな大好き「アイディア防災クッキング2」防災食を楽しく学びます。皆様のご参加をお待ちしております。

◽️今後予定しているイベント一覧
⑦アイデア防災クッキング2(実用性のある防災料理をつくる)
9月10日(木)18:00~20:00
⑧鎌倉の地形を学ぶ(ハザードマップや等高線などから鎌倉独自の地形を学ぶ)
9月24日(木)18:00~20:00

アウトドアライフアドバイザー 寒川ご夫妻のご紹介

寒川一さん

 アウトドアライフアドバイザー。アウトドアでのガイド・指導はもちろん、メーカーのアドバイザー活動や、テレビ・ラジオ・雑誌といったメディア出演など、幅広く活躍中。とくに北欧のアウトドアカルチャーに詳しい。東日本大震災や自身の避難経験を経て、災害時に役立つキャンプ道具の使い方・スキルを教える活動を積極的に行っている。
著書に『新時代の防災術』『「サボる」防災で生きる』『これからのキャンプの教科書』他

寒川せつこ さん

アウトドアの知恵を生かした災害時にも役立つ料理をメディアやワークショップなどで伝える。北欧の暮らしのエッセンスをレシピにも取り入れている。

◽️

参加者の方の声

鎌倉市在住 Yさん
必ず来る自然災害。その時に大切なのは「自分や家族を守り抜くスキル」があればと受講しました。
「起こらないだろう」という正常性バイアスにとらわれず、自助の力としてのアウトドア防災を身につけておくこと。
それは周囲に依存せず、迷惑を最小限にとどめる備えと考えて参加し続けています。

逗子市在住 Iさん
防災用に買った浄水器を使わずにいたけれど、鎌倉の湧水ワークショップを知り関心が高まりました。監修は焚き火カフェの寒川さん。インスタで見つけた防災講座に1月から参加し、毎回新しい発見があります。いつか自分の体験をもとに、防災ワークショップの輪を広げていきたいと思っています。

鎌倉市在住 Sさん
防災という非日常を意識する行為をいかに日常に溶け込ませるか、という点に意識を置かれている講座です。 各回それぞれの学びがとても深いのももちろんですが、連続して参加することにより、定期的に防災について考える機会ができ、意識が自然と高まる事が他の講座にはない魅力だと思います。いつでもどなたでも参加できます!

暮らしの防災コラム(第2期)

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この記事を書いた人

こんにちは、上岡洋一郎です。
鎌倉生まれ育ちの36歳、ハウスメーカー営業、不動産投資会社を経て、不動産屋さんをやっています。不動産を通してこの地域がもっとワクワクできないか、いつも模索しています。

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