100年後の景色を、耕す。

効率や正解の先に見つけた、土と生きる「多幸感」。

湘南地域の「人」と「まち」をつなぐメディア『湘南ひとまち』。
今回は、小田原市で梅農家として新たな風を吹き込んでいる、平澤勉さんをご紹介します。

エンジニアから農家へと転身したその歩みと、小田原・曽我の地に懸ける情熱。
平澤さんが見つめる農業の未来と、曽我地域への想いを聞いてみましょう。

元エンジニアが小田原・曽我の梅林で、100年後の笑顔への種まき。

富士山を仰ぎ、3万5000本の梅が咲き誇る小田原・曽我。この地で、以前は最先端の自動車開発に没頭していた一人のエンジニアが、今は丁寧にひと枝を握り、梅の枝を剪定しています。

平澤勉さん。大手メーカーで自動車の商品開発や技術開発に携わっていた彼を、農業という未知の世界へ突き動かしたのは、皮肉にも生死を彷徨ったバイク事故だったそうです。「人はいつ死ぬかわからない」。その強烈な実感が、彼を「効率的な正解」から「人生の納得感」へと向かわせたのです。

「消費者」から「景色を創る側」へ

40歳で退職し、理想の暮らしを探して辿り着いたのが、相模湾を見下ろす国府津・曽我の山の上でした。当初はただの移住者としてこの景色を愛でていた平澤さんですが、近隣の農家を手伝う中で、美しい梅林の裏側にある「切実な叫び」を耳にします。

「いくら作ってもお金にならない」「自分の子供には継がせたくない」。 高齢化が進み、10年後にはこの景色が消えてしまうかもしれないという現実。その時、エンジニアとしての課題解決の視点と、一人の人間としての情熱が結びつきました。「この素晴らしい場所を、ただ消費するだけでいいのか。自分が当事者として、この景色を未来へ繋ごう」。

鎌を振ることで辿り着く、禅にも似た「境地」

平澤さんの語る農業は、どこか哲学的です。夏の盛り、山の上でひたすら草を刈る作業。最初は「大変な労働」だったものが、作法を学び、身体の使い方が変わるにつれ、自分と世界が溶け合うような「ゾーン」へと変わっていきました。

「鎌の刃先が草の中を滑っていく感覚と、自分がダイレクトに繋がる。その時、自分という意識が消え、ただその行為そのものになるんです。顔を上げた時、目の前に広がる小田原の街並みを見て、『ああ、幸せだ。これ以外何もいらない』と心から思える。その充足感は、これまでの人生で味わったことのないものでした」

理系脳が切り拓く、農業の「新しいスタンダード」

情熱の一方で、平澤さんのアプローチは極めて論理的です。農業を「運任せ」にせず、出口から逆算するマネジメントを導入しています。

  • 未利用資源の価値化: 捨てられていた「梅酢」を新商品の「梅塩」へ、農家しか食べられなかった「超完熟梅」を絶品シロップへと昇華させました。
  • ジャンルを超えた共創: 「二日酔いしないプレミアムテキーラ梅酒」や、地元のハンターと連携した「ジビエ×梅」の提案など、これまでの農家の枠に捉われない「攻めの農業」を展開しています。
  • 次世代へのバトン: 大学生とのPBL(課題解決型学習)を通じて、若い感性を農業に取り入れ、「稼げる農業モデル」を共に模索しています。

誰かが「この人生で良かった」と思えるように

平澤さんの描く夢は、一軒の農家を存続させることではありません。この曽我という土地を、訪れる人が自分を取り戻し、「生まれてきて良かった」と感じられるような「大きな居場所」にすることです。

「自分がハッピーであるためには、周りの人がハッピーであることが一番。隣で寝ている妻に感謝し、一緒に汗を流す仲間に感謝する。その延長線上に、100年後の梅林があるのだと思います」

お金や物だけで測れない、本当の豊かさとは何か。 平澤さんが耕しているのは、梅の木だけではありません。私たちの心がいつの間にか忘れてしまった、命そのものが喜ぶ「生き方」を、彼はこの静かな里山で、今日も愚直に耕し続けています。

100万年の歴史と、100年後の未来

平澤さんが語る小田原の魅力は、単なる「景色の良さ」に留まりません。
「縄文土器の破片が落ちているような、数万年単位の歴史が暮らしに溶け込んでいる。ここには大切なものが全部あるんです」
その歴史の延長線上に、今の曽我の梅林があります。

しかし、担い手不足により、その景色は危機に瀕しています。平澤さんは現在、自ら梅農家として汗を流しながら、クラウドファンディングを通じたプロジェクトなど、技術や新しい感性を取り入れた「攻めの農業」を展開しています。

「曽我という素晴らしい場所が、100年後も続くように」

元エンジニアの多角な分析力と、地域を愛する熱い情熱。
その両輪で走り出した平澤さんの目は、じっと未来を見据えている気がしました。

実はこれから更なるプロジェクトも考えている平澤さん。次回はそのご紹介ができたらと思います。

平澤さんのお話会&梅作業のお手伝いのイベントを企画しています。

2026年5月23日(土)開催

2026年5月31日(日)

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この記事を書いた人

こんにちは、上岡洋一郎です。
鎌倉生まれ育ちの36歳、ハウスメーカー営業、不動産投資会社を経て、不動産屋さんをやっています。不動産を通してこの地域がもっとワクワクできないか、いつも模索しています。

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