鎌倉・湘南には、古くから人が住み継いだ家、海辺に立つセカンドハウス、これから再生される空き家など、さまざまな「住まいの形」が存在しています。
その中で、空き家をどう扱うか、二拠点居住を始めるかなどの判断には、手間や費用だけでなく、制度面で知っておきたいポイントがあります。特にこのエリアは土地評価が比較的高く、制度が使えるかどうかで負担や将来の選択が大きく変わることがあります。
ここでは、鎌倉・湘南で空き家や二拠点居住を検討する際に関係する制度や優遇策を整理してまとめます。
1|相続した空き家に使える「空き家の3,000万円特別控除」

相続により空き家となった住宅を売却する場合、条件を満たすと売却益から最大3,000万円を控除できる制度があります。(控除額は相続人が3人以上の場合、一部2,000万円となるケースがあります。)
制度の背景は、増え続ける空き家問題への対応です。
特に土地評価が高い鎌倉・湘南エリアでは、古い住宅でも土地だけで利益が出ることがあり、この制度が使えるかどうかで納税額が大きく変わることがあります。
対象となるのは、相続した住宅またはその敷地の売却で、主に次の特徴があります。
- 昭和56年(1981年)5月31日以前に建てられた住宅であること
- 相続開始から一定期間内に売却すること
- 売却後、耐震改修または解体(更地化)が行われること
また、2024年以降のルールでは、売主ではなく買主が売却後に工事を行った場合でも対象となる場合があります。
ただし、細かい条件(住まい方、区分所有かどうか、利用状況、売却価格1億円以下、特例の併用制限など)があるため、
「対象になる可能性があるか」を早めに把握しておくことが重要です。
参考:国税庁 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
参考:国土交通省 空き家の発生を抑制するための特例措置
(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html
2|鎌倉市や湘南エリアで実施されている補助制度

鎌倉・湘南では、空き家や古い住宅を安全な状態へ整備し、地域の景観や環境を守るための補助制度が運用されています。対象条件や上限額は年度によって変わることがありますが、知っておくと判断材料の幅が広がります。
たとえば、昭和56年以前の住宅など旧耐震基準の建物では、耐震診断や改修工事に対して費用の一部が補助対象となる場合があります。道路沿いや通学路に古いブロック塀が残っている住宅では、撤去費の補助制度が適用されることもあり、安全性の向上とセットで検討されることが多い内容です。
また、鎌倉らしさを形づくっている建物やエリアでは、景観に配慮した修繕や外観整備が補助の対象となるケースがあります。これは文化財や歴史ある街並みが多い鎌倉ならではの制度で、「残しながら使う」という視点と相性が良いものです。
さらに、省エネ設備や再生可能エネルギーの導入、バリアフリー化、環境配慮設備の設置など、暮らしやすさを高める方向の制度も並行して運用されています。同じ「空き家」でも、用途・築年数・場所・工事内容によって使える制度が変わるため、まずは対象範囲に入る可能性があるか整理することが大切です。
制度があることを知っているだけでも、「直す」「住む」「貸す」「売る」といった選択肢の幅が変わります。鎌倉・湘南で古い家と向き合うとき、補助制度は負担を軽くするひとつのヒントになります。
参考:住んでいる家屋にかかわる助成・支援制度をお探しの方
https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/kenchiku/jyutaku_jyosei.html
3|二拠点居住に関係する制度とローン条件の変化
近年、湘南エリアでは「二拠点居住(セカンドハウス)」という暮らし方が現実的な選択肢になりつつあります。背景にあるのは、国が二地域居住を政策として後押しし始めていることです。
国土交通省の定義では、二地域居住とは
主な生活拠点とは別の特定の地域に生活拠点(ホテル等も含む。)を設ける暮らし方
とされています。
住まいは戸建てやマンションだけでなく、改修された空き家・賃貸・お試し住宅・宿泊施設なども含まれます。
この暮らし方が推進される理由は、社会的にも個人的にもメリットがあるからです。例えば、
・都市と地方の行き来により関係人口・地域活性化につながる
・子育て・学び・自然環境・リモートワークなど暮らしの選択肢が広がる
・災害時などに拠点を分散でき、暮らしのリスク分散(冗長性)になる
といった価値が評価されています。
こうした動きを受け、これまで住宅ローンは「住民票がある家にのみ適用」が基本でしたが、近年は状況が変わり始めています。例えば、住宅金融支援機構の「フラット35」では、一定条件のもと、セカンドハウスとして使う住宅にも利用できるケースがあります。これは政策として、「二拠点居住を前提とした住宅取得を認め始めている」という大きな変化です。
さらに、国は今後、自治体・不動産会社・交通事業者・企業・学校などと連携し、以下の整備を進める方向性を示しています。
・空き家を改修した「お試し居住施設」
・二拠点居住者向けの住宅・コワーキングスペース
・Wi-Fi・交通アクセス・地域交通などのインフラ整備
・子育て・教育・行政手続きの仕組み改善
・二地域居住者と地元をつなぐ支援法人の設置(NPOや不動産会社を含む)
すでに全国でモデル事業が進行しており、法律面でも市町村が二拠点居住促進のための計画を立てられる枠組みが整えられています。
湘南エリアは自然環境・都市アクセス・働き方の多様化が揃う地域のため、今後二拠点居住制度の対象となりやすい地域と言われています。制度やローン条件は随時更新されるため、検討する際は「最新情報を前提に考える」ことが重要です。
二地域居住はブームではなく、政策として整備が進む新しい暮らし方のカテゴリーになりつつあります。
参考:国土交通省国土政策局地方政策課 二地域居住について
https://www.soumu.go.jp/main_content/000990601.pdf
4|放置すると税負担が変わることもある「空き家管理の視点」
空き家は2023年の法改正で、「管理不全空き家」という区分が新設されました。
外壁の損傷、草木の越境、衛生面の問題などが一定基準を超えると、自治体から指導・勧告が行われる可能性があります。
この勧告に従わない場合、固定資産税の住宅用地特例が外れることが最大のポイントです。
通常、住宅が建っている土地は
- 200㎡以下の部分:課税標準が1/6
- 200㎡超の部分:課税標準が1/3
に軽減されています。
しかし、管理不全空き家と判断されるとこの特例が外れ、固定資産税が最大6倍相当になるケースがあります。さらに、鎌倉・湘南の多くが該当する市街化区域では都市計画税も最大3倍になる可能性があります。
また、行政からの勧告に従わず放置が進むと、状況により50万円以下の過料となる場合もあります。
空き家を維持する場合は、
草木の管理、外観の点検、清掃といった基礎的な手入れを定期的に行うことが、将来の負担を大きく左右します。
参考: 全日本不動産協会 不動産保証協会 埼玉県本部
管理されていない空き家(管理不全空き家)の基準とは?
全日本不動産協会 不動産保証協会 ... 管理されていない空き家(管理不全空き家)の基準とは? | 全日本不動産協会 不動産保証協会 埼玉県本部 「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」が、令和5年(2023年)12月13日に施行となりました。本記事では法改正のポイントとともに『管理不全空き家』...
まとめ|制度を知っておくことで「選択」が整理しやすくなる

空き家や二拠点居住は、費用や管理の手間だけでは判断しづらいテーマです。
制度を知っておくことで、選択肢や方向性を落ち着いて整理しやすくなります。
鎌倉・湘南の家は、景色や環境、人との暮らしの記憶が積み重なっている分、判断に迷うこともあります。
今すぐ決めなくていい場合もありますし、制度が活用できるタイミングがある場合もあります。
- 売る
- 相続する
- 活用する
- 様子を見る
どれが正解ではなく、その家と暮らし方に合う選択肢を考えることが大切です。



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