令和7年度説明会『鎌倉で始める、自分らしい事業のつくり方』開催レポート
「かまくら起業のススメ」説明会に登壇させて頂きました。
〜鎌倉で始める、自分らしい事業のつくり方〜
「かまくら起業のススメ」(通称:かまスス)は、鎌倉市が推進する商工業振興計画「働くまち推進計画」の一環として、地域資源を活かしながら、自分のライフスタイルに合った“自分らしい起業”を実現するための支援プログラムです。
地域のつながりや人との出会いを大切にしながら、無理のないペースで自分らしい事業を立ち上げたいという想いを持った方々にとって、心強い伴走者となるこのプログラム。2025年度で第3期目を迎え、実践型の講座を通じて多くの挑戦者が誕生しています。
今回は、2025年7月に行われた令和7年度説明会にて私、上岡 洋一郎も登壇させて頂きました。他お二人の起業家によるゲストトークの様子をお届けします。それぞれがどのようにして“自分らしい起業”にたどり着いたのか、リアルなストーリーから見える内容となっています。皆さんの何かご参考になれば嬉しいです。
かまくら起業のススメ 〜自分らしい事業づくり講座〜
「かまくら起業のススメ」(かまスス)は、鎌倉の人や地域に貢献する “自分らしい起業”を支援するプログラムです。
3期目の今年度は「エフェクチュエーション」をキーワードに、より実践的なプログラムで事業立ち上げやブラッシュアップに取り組んでいきます。
このnoteでは、2025年7月に開催された講座説明会の中から、鎌倉で活躍する3名の起業家によるゲストトークの様子をお届けします。
それぞれがどのようにして “自分らしい起業” にたどり着いたのか ―― 鎌倉の多様なリソースを活かしたリアルな起業ストーリーをぜひ参考にしてみてください。
ゲストスピーカー
株式会社鎌倉ひとはこ / 鎌倉ヘイセイズ 共同代表 上岡 洋一郎 さん
アトリエ併設ショップ endrole 主宰 南 ユカリ さん
鎌倉アロマ&メンタルケア Asante Ma santé 代表 山田 曜子 さん
司会進行・運営事業者 株式会社あゆみの 土肥 梨恵子
実施主体 鎌倉市
連携 起業家創出拠点HATSU鎌倉
かまくら起業のススメ 公式Instagramはこちら
※以下敬称略
目次
- Q1: “心からやりたいこと” や “事業の軸” をどのように見つけましたか?
- Q2: 起業後の課題やリアルをどのように乗り越えましたか?
- Q3:”鎌倉” で起業した理由はなんですか?
Q1: “心からやりたいこと” や “事業の軸” をどのように見つけましたか?
上岡 「鎌倉の魅力を伝え、幸せと暮らしをつなげる」を理念に、不動産会社鎌倉ひとはこを経営しています。僕は生まれも育ちも鎌倉で、大学卒業後に不動産関係の会社を2社経験しましたが、忙しさから体調を崩して退職しました。その後は学生時代にしていたライフセーバーのバイトをしたりしながら、再度地元の不動産会社でゆっくりとリハビリのように働き始めました。

上岡 その頃から、かまくら駅前蔵書室(通称カマゾウ)のコミュニティに顔を出すようになり、地域のおもしろい人達と話を重ねるうちに、「自分も何か貢献できたら」と思うようになり、平成生まれの友人と一緒に、まち歩きやゴミ拾いをする鎌倉ヘイセイズを立ち上げました。
その活動を通じて地域とのつながりが深まり、ご縁があってHATSU鎌倉のチャレンジャーに参加。不動産仲介の経験を活かし、自分の会社を立ち上げることになりました。
僕が起業できたのは、地域の方々がいてくれたおかげだとつくづく感じています。会社の名前とロゴはカマゾウのメンバーが考えてくれて、事業のブラッシュアップも手伝ってもらいました。そしてHATSU鎌倉のつながりで税理士さんや法律関係に詳しい方にも助けてもらいながら、少しずつ準備を進めていきました。
自分がこれをやりたいと明確に決めて始めたというよりは、鎌倉のいろんな人やコミュニティから刺激を受けて、みんなと楽しく過ごす中で必要とされてることが形になっていったのだと思います。
南 私は洋服の製作を請け負う会社をいくつか経験し、その後はパリコレクションのブランドで企画提案や型紙制作を数年間担当しました。鎌倉に移住して洋裁アトリエendroleを開き、「一人ひとりに寄り添ったものづくり」をテーマに、教えること・つくること・設計することの3本を柱に事業を展開しています。

南 自分のアトリエを持つことは学生時代からの夢で、転職活動中に起業について考えるようになり、鎌倉に来て自然のそばで暮らすうちに「ここでアトリエを開きたい」と思うようになりました。一人でなかなか踏み出せずにいた時にかまススを知り、講座を通じて準備を始め、2024年2月に念願のアトリエをオープンしました。隔週で仲間に進捗を報告するので、それに向けて具体的に行動をするようになり、開業へ着実に進めていくことができたと思います。
アトリエで何をするかを決める際に、既製服やハンドメイドなど幅広く市場調査をしました。コロナ禍でハンドメイド市場が拡大しているというデータもあり、最終的に洋裁教室を開くことにしました。人の心と体に合ったものを丁寧に形にする、もの作りを通じてその人らしさを支えたいという想いで、日々お客様と向き合っています。
山田 20代は国際機関に務めて、アフリカや東南アジアで人道支援活動を行っていましたが、仕事などに関連した強いストレスで心身を崩し、生きがいだった仕事を休職しました。病院で処方された抗うつ剤の副作用にも苦しみ、出口の見えない日々が続きました。
そんな時、偶然持っていたエッセンシャルオイル(精油)の香りを嗅いだ瞬間、起き上がれなかった体が動いて、心と体がすごく楽になって――その体験がもとで、自然療法を取り入れ始めたところ体調が上向き、香りの力に救われた強い原体験になりました。

山田 それからアロマスクールに通い、講師資格を取得しました。自分の心身を立て直すために始めた学びでしたが、NGOの活動で訪れた東日本大震災の仮設住宅で「眠れない」「人に会いたくない」と話す方々に出会い、香りの力を伝えたいとの想いが芽生えました。また、産後うつに苦しむ友人たちを支えるため、副作用のない植物療法を広めたいと考えるようになり、アロマスクール Asante Ma santé(アサンテマサンテ)を立ち上げました。
開業の翌年に出産し、受講生も順調に増えていきましたが、個人事業主には産休も育休もありません。臨月まで働き、産後2か月で復帰して、授業の休憩時間に授乳をする――そんな毎日を必死に乗り越えてきました。その中でHATSU鎌倉のチャレンジャーに参加し、初めて育児や仕事の悩みを共有できる仲間と出会えて、とてもありがたい機会でした。
Q2: 起業後の課題やリアルをどのように乗り越えましたか?
上岡 資金面では、設立費用や経費の支払いで口座残高が減っていく時期は、やはり不安が強かったです。ただ今振り返ると、不動産業は毎日売上がある仕事ではなく、3ヶ月間売上ゼロということも珍しくないですし、起業初期の一時的な出費をそこまで心配する必要はなかったなと思います。
1年2年と時間が経ち、収支のサイクルが見えてきて、自分のペースで事業を回せるようになりました。起業当初は苦労も多かったですが、その経験があったからこそ、今いろいろな気付きが得られていると感じています。
土肥 確かに、年数を重ねるうちに出費や収入のタイミングが見えてきますよね。南さんはどんな課題がありましたか?
南 私は店舗を借りるための初期費用が大きく、そこが一番のハードルでした。もし日本政策金融公庫で融資を受けられなければ、店舗を借りるのはやめて事業計画を練り直そうと考えていたほどです。事前に大家さんへ「融資が受けられたら、その資金で初期費用をお支払いしたいのですが」とご相談し、ありがたいことに希望していた金額の融資が受けられて、店舗を借りることができました。
オープン当初は、かまススの仲間やその知り合いの方が訪れてくれて、路面の店舗でワイワイしている様子やポスターを見たご近所さんが「何のお店?」と声をかけてくれるといった感じで、少しずつ地域の方にお店を知っていただけるようになりました。
それと、起業してからクリエイション以外の業務にかなり時間が割かれることを痛感しました。会社員の頃は自分の得意を活かしてクリエイションだけに集中できたけれど、一人で起業すると、集客や経理や店舗の維持、事業に関わるすべてのことを平均以上にできないといけません。そこが想定よりもボリュームが大きかったです。
土肥 南さんも利用された日本政策金融公庫は、初めて創業する方に向けて低金利で融資を行う公的機関です。創業から3ヶ月間に必要な資金を前もって借り入れ、それをもとに事業をスタートする方が多いです。

土肥 山田さんは創業当時どんなことが大変でしたか?
山田 たくさんあって何を話そうか迷うのですが ―— 自宅のリビングで教室を始めた当初、子どもがうまれて部屋が散らかってしまい、毎朝1時間かけて片付けをしてレッスンの準備をしていました。それが大変だったので、5年ほど業務委託で家事や発送作業などのサポートの方に来てもらっていたんです。ただ、サポートの方も妊娠や介護などで辞めてしまうことが多く、その都度の調整にも労力がかかりました。
子どもの成長や生活に合わせて働けるのは起業のメリットだと思いますが、家庭と仕事の両立は本当に大変で、夫や周りの人の理解と協力があってここまでやってこれたのだと思います。
集客面では、ホームページのブログ更新や掲示板へのイベント掲載、Instagramなど、地道な情報発信を続けてアクセス数を伸ばしていきました。特にホームぺージでは、アフリカでの経験やメンタルを病んでアロマに救われたエピソードなど、かなりさらけ出して書いているのですが、意外なことにそこに興味を持って来てくださる方が多くて。自分では気付いていない強みがあるかもしれないので、さらけ出してみるのも必要なんだなと思いました。
土肥 かまススのプログラムにも、自分のヒストリーを深掘りし、その原体験をもとにどのように他者に貢献できるかを探るワークが含まれています。代表者のストーリーに共感してもらえるかどうかは、集客や採用など事業の様々な面に影響しますね。
Q3:”鎌倉” で起業した理由はなんですか?
上岡 地域に根ざした不動産という仕事柄、知り合いの紹介で仕事をいただくことも多く、まちや住む人たちの魅力もよく知っているので、あえて鎌倉から離れる選択肢はありませんでした。もちろん、良くも悪くも鎌倉は狭いまちで、お互いの目が気になったり、少し堅苦しく感じることもあります。でも、そうした環境の中で、どうやって良い関係性を築いていくかも含めて、このまちで起業する面白さや魅力があると思います。
僕自身は何かを作り出すのは得意ではなく、経理も事務も苦手で、よく起業できたなと思うのですが、それでも、この1~2年で事業が黒字化し、新しいメンバーも加わってくれて、無理のないペースで成長を続けられています。起業で一番大事なのは、人と比べずに自分のペースで進むことだと思います。もし僕で役に立てるのであれば、遠慮なく声をかけてください。
南 鎌倉を選んだのは、自然が身近にあることと、大町の鎌倉スワニーに生地を見に行った時に朝から多くの人でにぎわっているのを見て、「ここなら自分のお店にも関心を持ってもらえるかもしれない」と感じたのがきっかけでした。
鎌倉は地域のつながりが強く、店舗同士でお客様を紹介し合うことも多いです。それと、一人で店舗を開けていると不安になることもありますが、駐在さんや大家さん、ご近所さんがいつも気にかけてくださって、地域のみなさんに見守られ応援してもらっている実感があり、私の力になっています。
もし洋裁に興味があったら、アトリエ見学などできますので、ぜひ遊びにきてください。
山田 鎌倉で起業したのは、私自身が住みたかったから、そして誰もが訪れたいと思う魅力あるまちだったからです。レッスンのついでにちょっと観光していこうとか、全国から教室に来てくれる生徒さんそれぞれに、鎌倉を訪れる楽しみがあるようで、”通いたい教室 × 魅力的なまち” という相乗効果にとても助けられています。
私がHATSU鎌倉のチャレンジャーになって背中を押してもらったように、鎌倉には一歩踏み出すのを応援してくれる人やコミュニティがたくさんあります。もし何かやってみたいことがあれば、ぜひ声に出して進めてみてほしいなと思います。
土肥 ゲストのみなさま、ありがとうございました!

2025年度「かまくら起業のススメ」では、選考を経て30名の仲間が9月からプログラムをスタートしました。それぞれが自分らしいライフスタイルや働き方の実現に向けて第一歩を踏み出しています。
講座の様子は公式Instagramでも随時発信しています。ぜひフォローと参加者達への応援をよろしくお願いします!
※社名・役職などはインタビュー当時のものです。
皆さんのスタートに寄り添えたら(鎌倉ひとはこ・上岡より)
今回の登壇を通じて改めて実感したのは、「鎌倉には人の可能性を引き出してくれる場所と人がたくさんいる」ということです。私自身も、地域のコミュニティに関わる中で「自分にできること」を少しずつ形にしていきました。
これから起業を目指す皆さんには、無理に完璧を目指すのではなく、まずは「やってみたい」と思ったことを周囲に話してみることをおすすめします。きっと、声に応えてくれる人や場所が見つかるはずです。
鎌倉というまちが、多くのチャレンジを応援する土壌であり続けるよう、私たちも「まちづくり」だけでなく、皆さんの「何かこの街でやりたい!」に寄り添って背中を押せる存在になれたらと思っています。
これからも皆さんの起業の展開と、鎌倉のさらなる発展を心より楽しみにしています。


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