微生物研究がひらく循環型の未来
――慶應義塾大学・宮本憲ニ教授インタビュー(後編)
■ 前編のあらすじ
鎌倉の土から“プラスチックを食べる微生物”が発見された――そんな世界初の研究成果を追った前編では、西鎌倉小学校での実証実験から生まれた「ニシカマエンシス」の物語をご紹介しました。
この微生物は、ストローやペットボトル、ポリウレタンまで、複数種類のプラスチックを分解できる特性を持ち、循環型社会の実現に大きな可能性を示しました。さらに生ごみ処理器「キエーロ」の解析により、使い終えた土が肥料として再利用できることも判明。土の中で起こる“3万年分の進化”にロマンを感じながら、研究の最前線が語られました。
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■ インタビューゲストプロフィール
宮本憲ニ(みやもと けんじ)さん
慶應義塾大学理工学部生命情報学科教授。藤沢市辻堂在住。専門は微生物学で、プラスチック分解や循環型社会を支える研究を推進。鎌倉市との共同プロジェクト「COI-NEXT」などを通じ、市民・学生と共に地域課題の解決に挑んでいる。
■ トーク内容のまとめ
後編では、私たちの暮らしに直結する研究成果が語られました。
まず焦点となったのは「キエーロ」と呼ばれる生ごみ処理器。鎌倉市の燃えるごみの約42%が生ごみで、その大半が水分。これを燃やすには膨大なエネルギーが必要で、CO₂排出や焼却コストの問題につながっています。宮本教授の研究で、キエーロを使うことでCO₂排出を約99%削減できる可能性が示され、家庭単位での循環が社会全体に大きな効果をもたらすことが明らかになりました。
続いて話題に上がったのは「グリーンプラネット」と呼ばれる生分解性プラスチック。従来は数か月かかっていた分解が、研究によりフィルムなら3日、ストローなら2週間という短期間で分解可能であることが確認されました。自然界に流出する可能性がある製品には、このような素材を積極的に使うべきだと提言しています。
さらに難分解性で知られるポリウレタンについても、三菱電機との共同研究で分解菌を発見。家電やクッション、エスカレーターの手すりなど、これまで埋め立てるしかなかった素材に対して、新しい処理の可能性を開きました。
研究の最前線を支えるのは、宮本研究室の学生たち。失敗を重ねながらも挑戦を続ける姿を「静かな情熱」と表現し、教授自身も「やる前から疑うのではなく、まずはやってみることが大切」と語ります。福沢諭吉の言葉を引用し、挑戦の精神こそが研究の原動力であると強調しました。
最後に「学びとは何か」という問いに対し、宮本教授は「学生から生まれる発想や失敗からの学びにこそ、研究者自身も成長させられている」と答えました。研究は一方的な知識の積み重ねではなく、世代を超えて互いに学び合う営みである――そんな信念が印象的に語られています。
■ まとめ
土の中から未来を切り拓く研究は、鎌倉の暮らしや環境を大きく変える可能性を秘めています。納豆パックの処理はまだ難しいけれど、「素材そのものを見直す」「便利さの裏側にある環境負荷に目を向ける」という提案は、私たちにできる第一歩でもあります。
「学びは一生続くもの」――学生と共に挑戦を重ねる宮本教授の言葉は、研究の枠を超え、日々の暮らしを見直すヒントにもなります。
次回のゲストの学びもお楽しみに!
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