鎌倉在住・新田義貴監督の最新作「摩文仁 mabuni」── 祈りと記憶をつなぐ丘の物語
戦後80年を迎える今年、沖縄・糸満市の「摩文仁の丘」を舞台に、戦後の沖縄が抱える葛藤、祈り、そして分断を見つめるドキュメンタリー映画『摩文仁 mabuni』。監督を務めたのは、鎌倉在住の映像作家・新田義貴さん。
その上映が、逗子の映画館CINEMA AMIGOで9月に行われる。
なぜ、人はこの丘に立ち続けるのか──映画『摩文仁 mabuni』が映し出すもの
摩文仁の丘には、数えきれないほどの慰霊碑が立ち並んでいます。
そのひとつひとつが、戦争で命を落とした人々の存在と、それを想う人々の記憶を刻んでいます。
映画『摩文仁 mabuni』は、その静けさの中に潜む“声”に耳を傾けます。
主人公は、大屋初子さん。戦火を生き延びた89歳の“花売りのおばぁ”。彼女は戦後ずっと、摩文仁の慰霊碑「魂魄之塔」の前で、遺族や訪れる人々に花を手渡してきました。
その姿は、まるで戦後という時代を静かに見守り続ける灯火のようです。
本土と沖縄の間に横たわる「分断」、英霊として祀るのか、犠牲者として悼むのか。戦争の記憶は、今も私たちと社会の思惑の間で揺れています。
映画は、慰霊碑の前で交差するさまざまな立場の人々の祈りを映します。
沖縄住民、日本軍戦友、自衛隊、アメリカ軍関係者、韓国人遺族——
それぞれの思いが交錯し、時にすれ違いながらも、この丘に立ち、手を合わせる。
そしてその傍で、ひとり、花を手にする初子おばぁが祈り続ける姿があるのです。
それは、声にならない魂への対話であり、戦争の終わらない記憶に静かに寄り添う祈りです。
『摩文仁 mabuni』は、ただ戦争の過去を描く映画ではありません。
それは「今」と向き合う映画であり、これからの「私たち」の在り方を問う映画です。
沖縄から、そして摩文仁の丘から、世界へと静かに問いかける物語。本作は、初子おばぁや沖縄戦に関わった方々の人生を軸に、戦後の沖縄が抱える葛藤、祈り、そして分断を見つめていきます。
新田義貴(にった よしたか)|映像作家・ドキュメンタリー監督

鎌倉在住の映像作家。
東京都出身、慶應義塾大学卒業後、1992年にNHKに入局。報道局や福岡・沖縄放送局などでディレクターとして活躍し、中東、アジア、アフリカなど、世界の社会課題を取材・発信する番組制作を長年手がける。
2009年に独立し、映像制作会社「ユーラシアビジョン」を設立。
テレビ、映画、インターネットを横断しながら、国境や文化、世代を超えて「いま、世界で起きていること」を伝えるドキュメンタリー制作に情熱を注ぐ。
劇場映画の代表作に、沖縄の市場再生を描いた『歌えマチグヮー』(2012)、原発事故後の日本を追った『アトムとピース』(2016)など。
現在もウクライナでの戦争取材を継続しており、取材歴は80日以上に及ぶ。
「問いを投げかける映像」を信条に、戦争、記憶、平和、そして人の営みに深く目を凝らし続けている。
逗子・シネマアミーゴにて9月上映
湘南地域では、逗子のシネマアミーゴにて2025年9月14日(日)〜27日(土)の期間中に上映予定。
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映画を観てみて(感想) 戦争とは?平和とは?——私たちにとっての「摩文仁」
『摩文仁 mabuni』は、単なる戦争の記録映画ではありません。英霊の顕彰と犠牲者の慰霊が交錯する摩文仁の丘で、異なる立場の人々——沖縄住民、日本軍戦友、自衛隊、アメリカ軍関係者、韓国人遺族——が祈りを捧げる姿を通して、「平和とは何か」という根源的な問いを私たちに投げかけてきます。
そして、そのすぐ傍で、花を売り続けるおばぁがいます。語られることの少ない戦後の「日常」の中に、たしかに息づく祈りがある。そんな祈りを、どう受け止め、どう未来へつなげていけるのか——。
分断があることを見据え、その先に対話の道を探っていきたい。
映画『摩文仁 mabuni』概要
- 監替・撮影・編集|新田義貴
- ナレーター|知花くらら
- 主題歌| 寺尾紗穂
- プロデューサー|七沢潔
- 音楽|上畑正和
- 撮影協力|山城知佳子、砂川敦志、仲宗根香織、松林要樹、norico、瀬底梨恵、島袋笑美
- 整音|高梨智史
- グレーディング|川久保直貴
- 編集協力|濱口文幸記念スタジオ
- 制作協力|山上徹二郎
- 宜伝|スリーピン
- 制作・配給|ユーラシアビジョン
- 2025/日本/97分 カラー/ドキュメンタリー
- ©ユーラシアピジョン
新田監督の過去作品もぜひ!
過去には、沖縄の市場再生を描いた劇場デビュー作『歌えマチグヮー』(2012年)、原発事故と戦後日本の記憶を辿る『アトムとピース』(2016年)などを発表。現在もウクライナで取材を続けるなど、常に“今”と向き合う作品づくりを続けています。

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